■これから仕切りなおしです。50年に1度の大発見とされる、腰痛概念に劇的な転換が起きたプロセスからリスタートします。

 従来の腰痛概念に重大な転機が訪れたのは、アメリカ医療政策研究局(AHCPR)が1992年までに発表された急性腰痛に関する論文の体系的レビューを実施し、『成人の急性腰痛診療ガイドライン』を発表した1994年のことです。

 ちなみに、1991年にゴードン・ガイアットがEBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づく医療)という医の在り方を世に問うてから、世界で最初に作成された診療ガイドラインは、命にかかわるガンでも心臓病でも脳卒中でもなく、急性腰痛だったことが事の重大さを物語っていると言えるでしょう。

 

■AHCPR(アメリカ医療政策研究局)が『成人の急性腰痛診療ガイドライン』の作成に着手したのは、次の4つの理由があったからです。

【1】アメリカでは腰痛の罹患率が15〜20%と高く、就業不能の原因として挙げられる第1位が腰痛で、就業年齢の50%が毎年腰痛を発症している

⇒日本人が訴える症状のワースト3は腰痛・肩こり・関節痛ですから、腰痛を含む筋骨格系疾患はアメリカだけの問題ではありません。

 

【2】腰痛はプライマリ・ケアにかかる患者が訴える2番目に多い症状であり、整形外科医・神経外科医・産業医を訪れる最大の理由でもあり、外科手術を受ける3番目に多い疾患でもあることから、経済的・心理社会負担がきわめて大きい。

⇒産業関連腰痛に支払われる休業補償と労働損失額を合わせると、年間医療費の3倍に上ります。腰痛はどの国にとっても、公的保険制度を揺るがしかねないほど医療費のかさむ疾患なのです。

 

【3】腰痛による活動障害に苦しむ患者の大部分は、臨床転帰を改善させる有効な診断と治療を受けていないという科学的根拠が増加中である。

⇒腰椎手術の失敗に関する大量の医学文献があるにもかかわらず、外科手術を繰り返して腰痛が改善したという報告はほとんどなく、中には20回も手術を繰り返したという患者さんの記録さえあります。

 

【4】腰痛の研究機関が増加してきたために、一般的に行なわれている腰痛治療の体系的評価が可能となった。
 現存する科学論文には欠点があるものの、現在行なわれている治療法の有効性と安全性に関する結論には充分な科学的根拠がある。

⇒AHCPR(アメリカ医療政策研究局)が作成した『成人の急性腰痛診療ガイドライン』は、1984年〜1992年までに発表された医学文献を徹底的に分析し、もっともエビデンスレベルの高い第一級の証拠に基づく知見です。

 

■AHCPR(アメリカ医療政策研究局)の『成人の急性腰痛診療ガイドライン』作成委員会は、医師、カイロプラクター、看護師、理学療法士、作業療法士、および患者の代表などから構成され、腰痛とは下肢痛を含む腰に関する症状で活動障害があるもの、急性とは3ヶ月以内と定義した。 

 医療関係者の他に経済学者や腰痛を経験したことのある消費者代表も委員会に加わっているところが興味深いです。
 お偉い専門家ばかりでは庶民の痛みを本当に理解できるとは思えません。
 有効性と安全性だけでなく費用対効果にも注目した点が注目に値します。

 

■ 『成人の急性腰痛診療ガイドライン』では科学的事実を次の4段階に分類している。

【A】強力な事実に則した根拠(多数の質の高い科学的研究)。
【B】中等度の事実に則した根拠(1件の質の高い科学的研究か多数の妥当な科学的研究)。
【C】限られた事実に則した根拠(腰痛患者に関する1件以上の妥当な科学的研究)。
【D】事実に則した研究としては基準を満たさないと判断した研究。

 しかし、腰痛に関するRCT(ランダム化比較試験)は全体の0.2%しかないため、グレード「A」の科学的事実は存在しない。

 エビデンスレベル(科学的根拠の信頼性)の高い順に確証度(推奨度)を4段階で示しているわけですが、1984年〜1992年までに発表された急性腰痛に関する論文の中に「確証度A」のエビデンスが存在しなかった点に注目してください。

 

■ここから『成人の急性腰痛診療ガイドライン』が勧告する急性腰痛の診断法について紹介させていただきます。

 AHCPR(アメリカ医療政策研究局)が作成した『成人の急性腰痛診療ガイドライン』では、急性腰痛の診断法について【初期評価】【画像検査】【その他の検査】ごとにエビデンスレベル(科学的根拠の確証度)を明記して勧告を出している。

【初期評価】

(1)患者の年令、症状の内容とその期間、仕事や日常生活への影響、過去の治療に対する反応は、腰痛の治療にとって重要である(確証度B)。

⇒まずは患者さんの話をよく聴けという勧告です。病歴聴取(問診)はいつも大切ですね。
 これだけで画像検査以上の重要な情報が入手できます。

(2)がんの既往歴、原因不明の体重減少、免疫抑制剤や静注薬物の使用、尿路感染症の既往歴、安静時の疼痛増強と発熱は、がんや感染の可能性を示唆するレッドフラッグ(危険信号)とする。これらは50歳以上の患者で重要。(確証度B) 

⇒ここで初めてレッドフラッグの概念が明確にされたわけですが、これは画像検査ではなく病歴聴取(問診)で拾い出せます。

(3)馬尾症候群の徴候である膀胱機能障害やサドル麻痺を伴う下肢の筋力低下は、重大な神経障害を示唆するレッドフラッグ(危険信号)とする(確証度C)。

⇒もちろん48時間以内に緊急手術が必要な馬尾症候群もレッドフラッグです。
 医療関係者の方はけっして馬尾症候群を見逃さないでください。

(4)外傷の既往歴(若年成人の高所からの転落や交通事故、高齢者や骨粗鬆症患者における転倒や重量物の挙上)は、骨折の可能性を念頭に置く必要がある(確証度C)。

⇒いうまでもなく骨折も生物学的問題ですからレッドフラッグです。
 骨折を腰痛疾患と考える人はいないでしょうが腰痛を訴える高齢者の問診は慎重に。
 ただし骨粗鬆症による圧迫骨折は痛みが出る場合と出ない場合があります。

(5)心理的・社会経済的問題などの非身体的因子は、腰痛の診断と治療を複雑にする可能性があるため、初期評価の段階で患者の心理的・社会経済的問題に注意を向けることが推奨される(確証度C)。

⇒確証度Cとはいえ、1994年の段階で心理社会的因子(後のイエローフラッグ)に気付いていたということです。

(6)疼痛図表(pain drawing)や可視疼痛計測表(visual analog scale)は病歴聴取に利用可能である(確証度C)。

⇒痛みの評価も大事ですが頻繁に行なうと患部に注意を集中させてしまいますからご注意ください。
 痛みよりもできたことに注目させるのが認知行動療法です。

(7)SLR(下肢伸展挙上)テストは若年成人の坐骨神経痛の評価に推奨されるが、脊柱管狭窄を有する高齢患者ではSLRが正常となる可能性がある(確証度B)。

⇒下肢症状のない場合は省略してもかまいません。

(8)神経障害の有無の判定には、アキレス腱反射・膝蓋腱反射・母趾の背屈筋力テスト・知覚異常領域の確認といった神経学テストが推奨される(確証度B)。

⇒この神経学テストで椎間板ヘルニアによる神経根症状の責任高位を推定するわけですが、ご存知のように椎間板ヘルニアがあれば必ず神経根症状があるとは限りません。

 

【画像検査】

(1)最近の重度外傷(全年齢)・最近の軽度外傷(50歳以上)・長期のステロイド服用・骨粗鬆症・70歳以上というレッドフラッグがなければ、急性腰痛の検査として1ヶ月以内の単純X線撮影は推奨しない(確証度B)。

⇒いよいよ画像検査に入りました。
 レッドフラッグ(危険信号)のない急性腰痛(ぎっくり腰)患者に画像検査を行なうなという勧告です。
 わが国はルーチンワークのようにレントゲン写真を撮りますが、それは国民が当然の権利のように要求するのでやめられないという事情もあります。
 放射線被曝が好きな人以外はこうした考え方を改めましょう。

(2)最近の重度外傷(全年齢)・最近の軽度外傷(50歳以上)・長期のステロイド服用・骨粗鬆症・70歳以上というレッドフラッグがある場合、骨折を除外するために腰椎の単純X線撮影を推奨する(確証度C)。

⇒レッドフラッグ(危険信号)のない腰痛患者にレントゲン写真を撮る必要はないのです。
 しっかり頭に叩き込んでおきましょう。

(3)がんや感染症の既往・37.8℃以上の発熱・静注薬の乱用・長期のステロイド服用・安静臥床で悪化する腰痛・原因不明の体重減少が存在する場合、腫瘍と感染症の鑑別に単純X線検査にCBCとESRの併用が有効である(確証度C)。

⇒CBC(血算=赤血球数・白血球数・血小板数・ヘモグロビン)とESR(赤沈=赤血球沈降速度)は、レントゲン撮影以上に重要な情報を与えてくれるのに、日本ではあまり行なわれていないようです。

(4)腫瘍や感染症を疑わせるレッドフラッグ(危険信号)が存在する場合、単純X線撮影で異常所見がなくても骨スキャン・CT・MRIが必要となる可能性がある(確証度C)。

⇒腰痛疾患を診る場合はとにかくレッドフラッグを見逃すなということです。
 レントゲン写真より病歴聴取(問診)や理学検査(身体検査)の方がはるかに重要なのです。

(5)斜方向からの腰椎単純X線撮影を日常的に行うことは、放射線被曝の影響を考えると成人には推奨できない(確証度B)。

⇒レントゲン写真の斜位像は脊椎分離症を確認するために撮るわけですが、成人の脊椎分離症と腰痛は無関係なので、意味のない放射線被曝は避けろという強い勧告です。

(6)馬尾症候群や進行性の筋力低下のある患者は緊急手術が必要となる可能性があるため、CT・MRI・ミエログラフィー・CT-ミエログラフィーの緊急検査を推奨する。緊急検査の実施は外科医と相談して決定すべき。(確証度C)。

⇒馬尾症候群は24時間以内の緊急手術が必要ですが、確証度Cということでも分かるように、現在はミエログラフィーとCT-ミエログラフィーは推奨されません。

(7)脊椎腫瘍・感染・骨折・その他の占拠性病変の存在が強く疑われる場合は、CT・MRI・ミエログラフィー・CT-ミエログラフィーによる検査を実施することが推奨される(確証度C)。

⇒ハイリスクでハイコストの画像検査は、レッドフラッグのある患者だけに許されるということです。

(8)重篤な疾患を示唆するレッドフラッグがある場合を除き、腰痛発症後1ヶ月以内のCT・MRI・ミエログラフィー・CT-ミエログラフィーは推奨しない。発症1ヶ月後に重篤な疾患の鑑別や手術を検討する場合には容認(確証度B)。

⇒レッドフラッグがない腰痛患者に対して、コストがかかる上にリスクを伴う画像検査はするなという強い勧告です。

(9)腰椎外科手術の既往歴のある急性腰痛患者において、腰椎外科手術による瘢痕組織と椎間板ヘルニアを鑑別するための画像検査にはMRIを用いる(確証度D)。

⇒腰痛疾患の画像検査は放射線被曝のないMRIが望ましいのですが、コストパフォーマンス(費用対効果)がイマイチです。

(10)ミエログラフィーとCT-ミエログラフィーは侵襲的な検査であり、合併症のリスクを増大させることから、外科手術を前提とした特別な状況に限って行われるべき画像検査である(確証度D)。

⇒日本ではまだ行なわれているようですけど、腰痛診療ガイドラインが新しくなればなるほどミエログラフィー(脊髄造影)は避けるべきと勧告しています。

(11)CTとMRIのスライス幅は0.5cm以下で椎体終板に平行。MRIの磁界強度は0.5T以下。ミエログラフィーとCT-ミエログラフィーは水溶性造影剤。これらの画像検査の調書は放射線科医の報告を基に作成する(確証度B)。

⇒これはテクニカルなことなので特にコメントはありません。

(12)骨スキャンはレッドフラッグが認められる急性腰痛患者の評価に推奨するが、妊娠中は禁忌である(確証度C)。(13)サーモグラフィーは急性腰痛患者の評価に推奨できない(確証度C)。

⇒レッドフラッグがなければ画像検査は無意味なのは分かりますが、サーモグラフィーが役立たないというのは意外ですね。

(14)椎間板造影(ディスコグラフィー)は侵襲的な検査である上にその解釈も曖昧なため、急性腰痛患者には推奨できない。
 他の非侵襲的検査(CT・MRI)を行うことで、椎間板造影による合併症は回避可能である(確証度C)。

⇒そうはいってもCTだってかなり侵襲的(身体を傷つけること)なのですけどね。

(15)腰部椎間板ヘルニアによる神経根障害が疑われる患者に対するCTディスコグラフィーは、合併症のリスクが増大するために他の画像検査(CT・MRI)以上には推奨できない(確証度C)。

⇒要するに椎間板造影はやめろという勧告です。なのに日本ではまだ行なっている医療機関があるようです。

(16)鍼筋電図(EMG)とH反射は腰痛の有無に関わらず下肢症状が1ヶ月以上続く患者の神経機能障害の査定に有益と考えられる(確証度C)。
(17)理学検査で神経根症状の存在が明白なら電気生理学的検査は推奨しない(確証度C)。

⇒鍼筋電図(EMG)とH反射は下肢症状が神経根に由来するものなのか、あるいはニューロパシーの存在を確かめるには役立ちますが、発症後1ヶ月以内に行なうと誤診率が高くなります。
 電気生理学的検査というのはEMG(筋電図)やSEPs(脊髄誘発電位)を指します。

(18)急性腰痛患者の評価に体表EMG(筋電図)とF波テストは推奨できない(確証度C)。
(19)SEPs(脊髄誘発電位)は脊柱管狭窄症と脊髄ミエロパシーが疑われる場合の評価に有用と考えられる(確証度C)。

⇒推奨しないのというのでどうでもいいのですが、F波テストとは伝導速度検査法のことです。

(20)心理的・社会的・経済的因子は腰痛発症と治療成績に大きな影響を与える(確証度D)。
(21)レッドフラッグがないのに日常生活が困難な場合、検査や治療を追加する前に非現実的な期待や心理社会的因子を検討する(確証度D)。
 

⇒「確証度D」ですからまだ手探り状態だったんでしょう。しかし1994年にはすでに腰痛疾患とイエローフラッグ(心理社会的因子)との関連に気づいていたわけです。

 

■これからAHCPRの『成人の急性腰痛診療ガイドライン』が勧告している急性腰痛の治療について、
【患者への情報】
【薬物療法】
【保存療法】
【外科手術】
に分けてエビデンスレベル(科学的根拠の確証度)を明記して紹介していきます。

さて、いよいよ治療に入ります。世界初の腰痛診療ガイドラインはどんな治療法を推奨しているのでしょう。

【患者への情報】

(1)速やかに回復する、効果的な改善策、無理のない生活様式、再発の予防法、レッドフラッグがなければ検査は不要、症状が長引く場合の検査法と治療法の有効性と危険性など、患者に正確な情報を与える。(確証度B)。

⇒確証度Bの強い勧告なのに賞味期限の過ぎたデタラメな情報ばかりで、患者に正確な情報を与えることすら満足にできないのが日本の現状です。
 このままだと腰痛患者は増えることがあっても減ることはないでしょう。

(2)急性腰痛の治療においては、職場での腰痛教室(古典的な腰部の解剖学・姿勢・日常生活に関する教育)は臨床現場で行なう患者教育の助けになる(確証度C)。
(3)職場以外での腰痛教室の有効性はまだ証明されていない(確証度C)。

⇒この当時の腰痛教室は従来の腰痛概念に基づいたものですから確証度Cという評価なのです。
 現在では新たな腰痛概念に基づく患者教育が重要とされています。

(4)急性腰痛にとっては長期間の安静臥床(安静に寝ている)よりも、痛みの許す範囲内で徐々に日常生活に戻る方が効果的である(確証度B)。
(5)4日以上の安静臥床は筋力低下を招くために急性腰痛の治療として推奨できない(確証度B)。

⇒これは急性腰痛(ぎっきり腰)にとって一番重要な点です。
 結果的な安静は仕方ないとしても、治療としての安静臥床は間違いなく回復を遅らせます。
 「腰痛には安静が第一」という時代遅れの迷信をネット上から排除しなければなりません。

(6)急性腰痛に安静臥床(安静に寝ている)の必要はない。ただし、主に下肢痛を訴える患者で初期症状が強い場合は、2〜4日間の安静臥床を選択肢として選ぶことができる(確証度B)。

⇒繰り返します。急性腰痛(ぎっくり腰)に安静臥床は禁忌です。
 安静臥床が腰痛に効果があるという研究はこの地球上にひとつもありません。

(7)急性腰痛患者は、長時間座り続けたり、重い物を持ち上げたり、物を持ち上げる際に腰を曲げたり捻ったりなど、脊柱に構造的負担がかかる特別な活動を一時的に制限したり避けたりることで楽に過ごせる可能性がある(確証度D)。

⇒こんなことはいちいち勧告されなくても体験者はよく知っていることですね。

(8)急性腰痛患者の活動量や作業内容の変更を検討する際、年齢と全般的な健康状態、仕事で要求されるだけの体力があるかどうかを考慮する必要がある。(確証度D)。

⇒この当時は確証度Dでしたが現在では腰痛疾患の治療と予防には職場の協力が不可欠とされています。
 医学的介入だけで腰痛問題を解決しようとするのは医療関係者の奢りといえるでしょう。

 

【薬物療法】

(1)アセトアミノフェンは安全性が高く急性腰痛患者の治療に許容できる(確証度C)。
(2)アスピリンを含むNSAID(非ステロイド系抗炎症薬)は急性腰痛患者の治療に推奨できる(確証度B)。

⇒要するに市販の鎮痛剤を用いても良いという勧告ですが、これで急性腰痛(ぎっくり腰)を治してしまおうというのではなく、もし痛みが和らいだらその間に普段の生活に近づけるよう努めることが大切です。
 普段どおりの生活をすることが腰痛の特効薬なのですから。

(3)NSAIDには主に胃腸障害の副作用があるため、使用にあたっては既往歴・副作用・費用対効果などを考慮する必要がある(確証度C)。
(4)フェニルブタゾンには骨髄抑制(再生不良性貧血など)のリスクがあるため推奨できない(確証度C)。

⇒胃潰瘍の既往歴のある人はNSAIDに注意してください。フェニルブタゾンが日本で使われることはほとんどありません。

(5)筋弛緩剤は急性腰痛の治療において選択肢のひとつになる。ただし、プラシーボより有効だろうがNSAIDを上回る有効性は示されていない(確証度C)。(6)筋弛緩剤とNSAIDを併用してもNSAID単独より有効とはいえない(確証度C)。

⇒この当時(1994年)は評価が低かったようですけど、その後RCT(ランダム化比較試験)が増えたため、最新のガイドラインでは発症後4週間以内の急性腰痛に筋弛緩剤を推奨しています。

(7)筋弛緩剤は患者の30%に眠気やめまいなどの副作用が現れるため、筋弛緩剤を選択肢のひとつとして使用する場合は、他の薬物療法で生じ得る副作用のリスクを考慮して処方すべきである(確証度C)。

⇒そもそも筋肉のこわばり(筋拘縮:筋性腰痛症・筋筋膜性腰痛)が腰痛の原因だという概念にコンセンサスはありません。

(8)オピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)は限定的に使用されるのであれば急性腰痛患者の治療において選択肢のひとつとなるが、他の薬物療法で生じ得る副作用のリスクを考慮して処方すべきである(確証度C)。

⇒コデイン含有の薬(オピオイド鎮痛剤)の副作用は、便秘、めまい、倦怠感、集中力低下、視力低下、眠気、吐き気などがあり、身体的依存を招く危険性もあります。

(9)オピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)は、腰痛疾患の症状緩和においてアセトアミノフェンやアスピリン、あるいは他のNSAIDといった安全な鎮痛薬より効果的とは思えない(確証度C)。

⇒この当時(1994年)はRCT(ランダム化比較試験)が少なかったせいで低評価ですが、最新のガイドラインでは急性腰痛にも慢性腰痛にもオピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)を推奨しています。

(10)医師はオピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)の反応時間の遅延・判断力の低下・眠気といった副作用によって、35%の患者が早期に服用を中断していることを知っておくべきである(確証度C)。

⇒コデイン含有のオピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)を服用している患者の35%がその副作用に耐えられないということです。

(11)患者は身体的依存および車の運転や重機の操作など、オピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)の使用と関連付けられている副作用のリスクについて警告を受けるべきである(確証度C)。

⇒コデイン含有のオピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)を服用している方は、車の運転や重機の操作、空中ブランコなどは危険ですからおやめください。

(12)経口ステロイド剤(ステロイド系抗炎症薬)は急性腰痛の治療として推奨できない(確証度C)。
(13)経口ステロイドによる重大な副作用のリスクは長期間の服用や短期間の大量服用と関連している(確証度D)。

⇒ステロイドが効かないということは、どこかが炎症を起こして急性腰痛(ぎっくり腰)になるのではない証拠です。

(14)コルヒチン(痛風発作を抑える薬)の有効性を示す確たる証拠はなく、強い副作用の危険性があることから、急性腰痛患者(ぎっくり腰)の治療にコルヒチンは推奨できない(確証度B)。

⇒コルヒチンの副作用には、胃腸障害(下痢・嘔吐・腹痛など)、過敏症(痒み・発疹・発熱など)、骨髄抑制(再生不良性貧血・顆粒球減少など)があります。

(15)抗うつ剤は急性腰痛患者(ぎっくり腰)の治療に推奨できない(確証度D)。

⇒最新の腰痛診療ガイドラインでは急性腰痛ではなく慢性腰痛の治療に抗うつ剤を推奨しています。

 

【保存療法】

(1)脊椎マニピュレーション(カイロプラクティックなど)は神経根症状のない急性腰痛患者(ぎっくり腰)に対して、発症後1ヶ月以内に用いられれば症状が改善する可能性がある(確証度B)。

⇒脊椎マニピュレーションとは、症状緩和と機能改善を目的に梃子の原理を利用して脊柱に瞬発的外力を加える手技療法と定義。

(2)進行性あるいは重大な神経学的欠損(知覚麻痺・筋力低下など)が認められる場合、脊椎マニピュレーションを行なう前に危険な神経学的問題を除外するために適切な診断評価が必要とされる(確証度D)。

⇒明確な根拠はないものの脊椎マニピュレーションによる重大な合併症の頻度はきわめて少ないと考えられています。

(3)神経根症状に対して脊椎マニピュレーションを推奨する十分な証拠はない(確証度C)。
(4)1ヶ月以上持続している神経根症状のない腰痛患者に対する脊椎マニピュレーションはおそらく安全だが効果は証明されていない(確証度C)。
 

⇒RCT(ランダム化比較試験)が不足していたためにこのような結論になっていますが、最新の腰痛診療ガイドラインではもう少し高く評価されています。

(5)脊椎マニピュレーションによる治療を1ヶ月間行なっても患者の症状や機能障害の改善が認められない場合は、脊椎マニピュレーションを中止して患者を再評価すべきである(確証度D)。

⇒発症後1ヶ月以内であれば脊椎マニピュレーションによって回復が早くなることを示唆するエビデンスがあるからです。

(6)急性腰痛(ぎっくり腰)に対する物理療法(温熱・寒冷・マッサージ・超音波・低出力レーザーなど)の費用対効果は十分に証明されていない。患者が家庭で患部を温めたり冷やしたりすることは選択肢のひとつとなり得る(確証度C)。

⇒この当時(1994年)に確認された研究では急性腰痛に対する物理療法はほぼ全滅ですが、最新の腰痛診療ガイドラインでは腰が抜けるほど驚くような結果が出ています。

(7)TENS(低周波治療器)は急性腰痛の治療に推奨しない(確証度C)。
(8)長時間立ち仕事をする急性腰痛患者にインソールは選択肢のひとつ(確証度C)。
(9)下肢長差が2cm以下ならシューリフトは推奨しない(確証度D)。

⇒TENS(経皮的電気刺激=低周波治療器)に効果がないのは周知の事実でしょうから説明するまでもありませんが、インソールで症状が緩和したのは44%だということを覚えておいてください。それから健康な人でも下肢長差が2cmというのはざらにあり、2cmの下肢長差と腰痛との間に関連はないことが確認されています。

(10)急性腰痛に対する腰部コルセットとサポートベルトの有効性は証明されていない(確証度D)。
(11)腰部コルセットは荷役作業従事者の腰痛による欠勤日数を減少させる可能性がある(確証度C)。

⇒最新の腰痛診療ガイドラインでは、腰部コルセットもサポートベルトも腰痛の治療や予防に効果なしという勧告が出ています。

(12)急性腰痛患者(ぎっくり腰)の治療に牽引は推奨できない(確証度B)。
(13)急性腰痛患者の治療にバイオフィードバックは推奨できない(確証度C)。

⇒牽引が腰痛の緩和、活動障害の改善、入院日数の減少に有効だという証拠は存在しません。バイオフィードバックに効果がないのは意外です。

(14)トリガーポイント注射の有効性は証明されておらず、侵襲的なために急性腰痛の治療に推奨できない(確証度C)。
(15)靭帯や硬結部への注射の有効性は証明されておらず、侵襲的なために急性腰痛の治療に推奨できない(確証度C)。

⇒最新の腰痛診療ガイドラインの勧告も同じです。トリガーポイントや軟部組織への注射の有効性は未だに認められていません。

(16)椎間関節ブロック有効性は証明されておらず、侵襲的なために急性腰痛の治療に推奨できない(確証度C)。
(17)硬膜外ブロックは侵襲的なために、神経根症状を伴わない急性腰痛の治療に推奨できない(確証度D)。

⇒そもそも椎間関節症(椎間関節症候群)という病名自体にコンセンサスがありません。最新の腰痛診療ガイドラインでも急性腰痛に対する硬膜外ブロックは否定的です。

(18)硬膜外ブロックは保存療法で神経根症状の改善が見られない場合、手術を避けるための緩和療法として用いることができる(確証度C)。
(19)鍼治療や乾性穿刺は急性腰痛患者(ぎっくり腰)の治療として推奨できない(確証度D)。

⇒硬膜外ブロックの急性腰痛および神経根症状に対する有効性は確認できませんでしたが、委員会の総合的判断によって手術を避ける選択肢として認められました。
 鍼治療と乾性穿刺(ドライニードル)に関しては急性腰痛を対象とした臨床試験が存在しませんでした。

(20)軽いエアロビックエクササイズ(有酸素運動)は活動障害による体力低下を防ぎ、日常生活ができるだけの機能回復を促す(確証度C)。
(21)軽いエアロビックエクササイズは腰痛発症から2週間以内に始めてもよい(確証度D)。

⇒最新の腰痛診療ガイドラインでは急性腰痛に運動療法は推奨していませんから日常生活の延長と考えた方がいいでしょう。

(22)体幹筋(特に脊柱起立筋)の強化運動は急性腰痛患者に有効だが、発症後2週間以内に始めると症状を悪化させる恐れがある(確証度C)。
(23)エクササイズマシンが従来の腰痛体操より有効という証拠はない(確証度D)。

⇒急性腰痛に体幹筋強化運動が有効といっても被験者数が少なすぎてエビデンス(科学的根拠)としてはかなり弱いです。

(24)急性腰痛に対してストレッチが有効だという証拠は存在しない(確証度D)。
(25)運動中に疼痛が増強したからといって運動を中断するよりも、痛みの程度に応じて徐々に運動量を増やすほうがはるかに効果的である(確証度C)。
 

⇒症状に注目するのではなく出来たことに注目して徐々に活動範囲を広げるのが認知行動療法です。
 こうした認知行動療法的考え方は急性期の段階から重要だと言えるでしょう。

 

【外科手術】

(1)保存療法を1ヶ月間行なっても坐骨神経痛が改善せず、進行性の耐え難い痛みが持続し、神経根が関与している臨床的根拠がある場合に限り、椎間板ヘルニアに対する手術を検討するべきである(確証度B)。

⇒4〜8週間の保存療法でまったく改善が見られない場合は、そのまま保存療法を続けるより椎間板切除術を行なったほうが早く症状が改善する可能性はありますが、長期成績は保存療法と差はありません。

(2)標準的椎間板切除術と顕微鏡下椎間板切除術の有効性は同等であり、神経根症状を伴う椎間板ヘルニアに推奨できる(確証度B)。

⇒一般的に椎間板切除術は比較的安全な治療法とされていますが再手術例もかなり多く、心理社会的因子が予後予測因子とされています。

(3)キモパパイン注入療法は椎間板ヘルニアに対する治療法として受容可能だが、標準的椎間板切除術や顕微鏡下椎間板切除術より有効ではない。キモパパインによるアナフィラキシーショックはアレルギー検査で回避できる(確証度C)。

⇒プロゴルファーの岡本綾子選手が行なったことで知られるキモパパイン注入療法ですが、アナフィラキシーショックなどの重篤な合併症があるため日本では認可されていません。

(4)椎間板ヘルニアに対する経皮的椎間板摘出術はキモパパイン注入療法より有効ではない。
 経皮的椎間板摘出術を含む新しい手術方法は比較試験によってその有効性が証明されるまで推奨できない(確証度C)。

⇒どんな場合でもそうですが必ずしも新しい治療法が有効とは限りません。
 ランダム化比較試験を繰り返すことで初めてその有効性が証明されるのです。

(5)神経根症状のない急性腰痛(ぎっくり腰)患者で、レッドフラッグ(危険信号)がなければ椎間板ヘルニアを疑って外科手術を検討する必要はない(確証度D)。
 

⇒神経根症状の有無にかかわらず、レッドフラッグのない急性腰痛に手術の適応などあるはずがありません。

(6)脊柱管狭窄のある高齢者であっても、日常生活に支障がなければ保存療法による管理が可能であり、症状が現れてから3ヶ月間は外科手術を考えるべきではない(確証度D)。

⇒脊柱管狭窄症に対する手術と保存療法のランダム化比較試験は存在しませんが、その症状は時間の経過に伴いまったく変わらないか、徐々に悪化するか、徐々に改善するかのいずれかです。

(7)脊柱管狭窄症患者に対する外科手術の決定は、単に画像検査の結果に頼るのではなく、持続的な間欠性跛行、活動障害、その他の神経学的所見を考慮して行なわれるべきである(確証度D)。

⇒脊柱管狭窄症は減圧椎弓切除術によって下肢痛と歩行能力の改善が見込めるものの、その効果は時間の経過と共に失われる傾向にあります。

以上、1994年にアメリカ医療政策研究局(AHCPR)が発表した『成人の急性腰痛診療ガイドライン』を終了します。

 多くの研究者が腰痛に取り組んできたにもかかわらず、腰痛は依然として医学的・社会的大問題である。
 効果のない治療と見当違いの政策によりこの危機が雪だるま式に大きくなっている。
 「腰痛は20世紀の医学的大問題だったがその遺産は21世紀も拡大している」http://amzn.to/mdUzuP

 医療提供者は腰痛に関する患者の誤解を解くと共に、効果的な管理へ導かなければならない。
 「患者は生体力学的な視点から生体力学的な異常が見つかることを期待している。
 何らかの形で我々が患者にそのような考え方を教えてきたのである。
 患者にも再考を迫る必要がある」by David Shute。

 見当違いの政策は今すぐどうこうなるものではありませんけど、効果のない治療法は明らかになってきているので即刻やめることができます。
 そろそろ21世紀の治療を始めませんか?

 腰痛の原因は生体力学的な異常と考えている医療関係者がいる限り、患者の誤解を解くなど不可能です。
 まずは医療関係者の頭を変えなければなりません。
 常に情報のアップデートを心がけましょう。
 あっという間に浦島太郎になってしまいます。

 

■腰痛はアメリカでもっとも過剰診療が行なわれる疾患だが、それによって患者の治療成績や発症率が改善したようには思われない。

 アメリカだけではなく日本も同じなのはご存知のとおりです。
 画像検査はもちろんブロック注射や脊椎固定術の実施率が上昇しているにもかかわらず、腰痛疾患は増え続けています。

 腰痛問題が解決しないのは、医療提供システムに欠陥があるからだという。
 画像検査、鎮痛処置、手術を受けさせた方が、過剰な恐怖心、不適切な疼痛行動といった心理社会的危険因子を取り除くより容易である。
 しかも現行の健康保険制度は、慢性腰痛に役立つサービスを提供できる構造になっていない。

 たとえ医療システムに構造的欠陥があったとしても、腰痛患者を減らすことはできます。
 オーストラリアをはじめとしたメディアキャンペーンがそれを立証しています。

 

■『Tackling Musculoskeletal Problems』によると、
 筋骨格系疾患で重要なのは
 「長期病欠は不利益」
 「患者は損傷に苦しんでいるのではなくイエローフラッグ、ブルーフラッグ、ブラックフラッグに苦しんでいる」
 「患者を助けるには資源や費用は不要」
 「職場復帰には医師のみならず職場の関与が必要」
 の4点である。http://amzn.to/lU1o26

 長谷川 淳史 氏 著『腰痛ガイドブック』(http://amzn.to/12nmFLf)と長谷川 淳史 氏 訳『急性腰痛と危険因子ガイド』(http://amzn.to/Xr17tE)で紹介されているように、
 「イエローフラッグ」は臨床転帰不良や慢性疼痛、活動障害をもたらす患者自身の心理社会的問題。
 痛みを大惨事と捉える
 重病だという思い込み
 過度の心配、抑うつ
 動作恐怖
 将来の不安
 受動的態度
 効果のない治療など。

 「ブルーフラッグ」は職場に関連した問題。
 肉体労働
 満足度の低い仕事
 職場の社会的支援不足
 ストレスの多い仕事
 労働環境や作業内容の変更が行なわれない
 労使間のコミュニケーション不足など。

 「ブラックフラッグ」は患者をとりまく社会的環境に関する問題。
 会社や医療関係者との意見の不一致
 補償問題
 各種手続きの遅延
 恐怖心を煽るメディアに対する過剰反応
 家族からの否定的反応
 社会的孤立や社会的機能不全
 役立たない職場復帰計画など。

 

■『Tackling Musculoskeletal Problems』には、筋骨格系疾患患者の職場復帰を妨げる重要な心理社会的因子(イエローフラッグ、ブルーフラッグ、ブラックフラッグ)だけでなく、時系列に沿った段階的治療手順が示されている。http://amzn.to/lU1o26

・発症後2週間以内に行なうべきは患者の支援である。

⇒すなわち、エビデンスに基づく助言、誤った信念の打破、症状のコントロール。この初期段階で手を打てないのが日本の現状。最初からボタンをかけ違えているから腰痛患者が増える一方なのだ。
 医療関係者とメディアの罪は重い。

・発症後2〜6週間で行なうべきは簡単な介入である。

⇒すなわち、治療+職場環境の調整、心理社会的問題の特定、仕事や活動障害の早期復帰計画を作成すること。
 ニュージーランドガイドラインである『急性腰痛と危険因子ガイド』(http://amzn.to/Xr17tE)では、もっと早い段階でイエローフラッグを評価するよう勧告している。

・発症後6〜12週間でシフトチェンジして加速する。

⇒すなわち、回復の妨げとなる障害のチェック、職業的リハビリテーションの拡大、効果のない治療の中止だ。
 繰り返しになるが、筋骨格系疾患を医学的問題として治療すると失敗する。
 イエローフラッグ、ブルーフラッグ、ブラックフラッグを解決すべき。

・発症後12週間を超えた時点で集学的アプローチを加える。

⇒すなわち、治療計画と到達目標の再検討、認知行動療法への転換、仕事や活動を再開するためにすべての関係者が最大限の努力をする。
 とはいえ、認知行動療法的アプローチはできるだけ早い段階で加えた方が慢性化を防ぐと思われる。

・発症後26週間で社会的解決へ移行する。

⇒すなわち、目標を明確にすると同時にコミュニティサポートの提供、すべての関係者がコミュニケーションを維持、不必要な医学的介入の回避だ。
 ここまでくるとブラックフラッグへの介入が重要と思われる。
 医療関係者、政府、企業、メディアを変える必要あり。

 

■ノースカロライナ州の地域住民を対象とした最近の研究によると、慢性腰痛があると回答した成人の割合は、1992年には3.9%だったものが2006年には10.2%にまで増加している。
 腰痛を生物・心理・社会的問題として対処しないからにほかならない。

 これはアメリカだけの問題ではありません。
 このままだと遅かれ早かれ国民皆保険制度は崩壊の危機に瀕することになります。
 腰痛の慢性化はどんな手段を使ってでも阻止しなければなりません。

 

■体系的レビューとメタ分析の結果、慢性腰痛は年齢・性別・体重・教育レベルの影響をまったく受けておらず、肉体労働・仕事の満足度・病欠などの影響も弱い。
 もっとも重要なリスクファクターは、心理学的・機能的領域と考えられる諸因子(イエローフラッグ)である。

 慢性腰痛の危険因子は目に見える身体ではなく、目に見えない心理社会的因子(イエローフラッグ)だと第一級のエビデンス(科学的根拠)が示しています。
 そろそろ腰痛に対する考え方を根本的に改めましょう。

 

■慢性腰痛患者を対象とした二重盲検プラシーボ対照RCT(ランダム化比較試験)の結果、巷で大人気のグルコサミン服用群に、プラシーボ群を上回る統計学的に有意な利点は認められなかった。

 もう耳にタコができるほど繰り返していますけど、グルコサミンもコンドロイチンも腰痛や関節痛には無効だというエビデンス(科学的根拠)が蓄積されてきていますし、海外では訴訟問題にまで発展しています。
 あとはここを読んだ方が考えてください。

 

■88,000名以上を対象としたコホート研究により、筋骨格系疾患を持つ患者の死亡率と発がん率の高いことが判明。
 死亡率が高いのは股関節痛・腰痛・肩関節痛の順で、発がん率が高いのは腰痛・股関節痛・頚部痛の順だった。

 理由は不明とありますが、後の研究では運動量や食事習慣などの関与が疑われています。
 だからこそ筋骨格系疾患は慢性化する前に治してしまわないといけないのです。

 

■腰痛の原因はいまだに謎だが、椎間板変性を腰痛の原因と考える脊椎外科医は23%のみで、その患者に固定術か椎間板置換術を選択すると答えた脊椎外科医はわずか1%しかいない。
 もし自分が患者なら99%が保存療法か放置すると回答。

 あらゆる研究が椎間板変性(椎間板が潰れている状態)と腰痛は無関係だと証明しているにもかかわらず、それを腰痛の原因だと信じ込んでいる医師が23%も存在するとは驚きです。
 もちろん手術の適応になるはずがありません。

 

■1966年から2010年2月までに発表された論文を検索した結果、現在の腰痛管理システムはけっして理想的なものではなく、腰痛を悪化させる可能性すらあることを示す豊富なエビデンスがあることが判明。

 従来の腰痛治療は思っていた以上に効果がないことが明らかになっています。
 同時に効果のある方法も明らかになってきています。
 21世紀の腰痛治療は無効な治療法の排除と有効な治療法を3つ以上組み合わせることです。


■2年間にわたる追跡調査によると、坐骨神経痛を有する椎間板ヘルニアの手術は保存療法より有益とはいえない。
 職場復帰率や長期活動障害率においても手術の優位性は認められなかった。
 坐骨神経痛は手術を受けるか否かに関わらず時間が経てば改善する。

 いわゆる坐骨神経痛も風邪や逆剥け(さかむけ・ささくれ)と同じグリーンライト(自己限定性疾患)だということです。
 風邪や逆剥けで手術を考える人がいないように、腰痛や坐骨神経痛で手術をするのは慎重でなければなりません。

 

■イギリスで行なわれた701名を対象としたRCT(ランダム化比較試験)では、数回にわたる集団での認知行動療法によって慢性腰痛の疼痛と活動障害が改善され、その効果は12ヶ月も持続しただけでなく、費用も一般的な腰痛治療の約半分に抑えられた。

 現時点で慢性腰痛に対して有効性が証明されている精神療法は認知行動療法の他にありません。

 

■精神療法が慢性腰痛の有効な治療法になり得るという考えを理解するのは、患者にとっても医師にとっても難しい。
 腰痛は身体的に治療されるべき症状であり、腰痛が改善すれば身体的問題も心理的問題も軽減されるはずだと多くの人々が考えているからだ。
 だがその方法論では症状の一部しか軽減されない。

 勉強されている医療関係者はすでに気づいています。
 ただ現行の健康保険制度がそれを許してくれないのです。

 

■腰痛疾患の分野では十分な試験が行なわれることなく新しい技術が普及してしまう。
 アメリカでは脊柱管狭窄症に対する固定術の実施率が15倍に増加したが、それに伴い重篤な合併症、死亡率、再入院による医療費なども増加している。
 明らかに過剰診療。

 脊椎固定術が他の手術方法より優れていると証明されたことはないのですから、医療仕分けの対象になるのも当然です。

 

■脊柱管狭窄症の治療では、特異的な適応がほとんどない症例やより簡単な治療で高い効果が得られる明確なエビデンス(科学的根拠)がある症例に対しても、より複雑な新しい手技(固定術)が行なわれている。
 エビデンスのないリスクを伴う高価な治療の急増は問題だ。

 もうそろそろ危険で無効な治療はやめて安全で有効な治療法を選択しましょう。

 

■脊柱管狭窄症で複雑な固定術を受けた患者は、除圧術に比べて命に関わる合併症リスクが3倍(5.6%対2.3%)。術後30日以内に再入院する可能性も高く(13%対7.8%)、手術費用も3倍強にのぼる(80,888$対23,724$)。

 リスクとコストに見合うだけのベネフィット(有益性)があれば問題ないのですけど、それを無視してまで固定術を強行する意味が分かりません。
 お金のためだと思われても仕方がないのではないでしょうか。

 

■複雑な固定術を必要とする脊柱管狭窄症がわずか6年で15倍に増加したとは考えられない。
 脊椎分野のオピニオンリーダーの影響や思い込み、経済的利益などの要因が関与している。
 正確な情報を与えられれば患者は低侵襲性のリスクの小さい手術を選択するだろう。

 独りよがりなのかもしれませんが「医は仁術なり」という格言は現代でも通用すると考えています。
 病名を増やして弱者を食い物にすることに大きな疑問を感じます。
 正確な情報が広く国民に伝わることを切に願っています。

 

■fMRIを用いた研究によると、痛みに関連した言葉とイメージを思い浮かべると脳のペインマトリックスが活性化するが、注意を逸らせると活性レベルが低下した。
 ゆえに、痛みをくよくよ考えたり頻繁に話題にしたりする患者は自ら症状を悪化させている。

 慢性疼痛の治療には言葉とイメージがとても大切です。
 だからこそ、医療関係者は不安と恐怖をあおるような説明を避けるべきなのです。
 安心と勇気を与えましょう。

 

■腰痛分野の研究はこの20年間で目覚しい進展がみられ、腰痛疾患の疫学や理解が進んだにもかかわらず、腰痛の臨床転帰や活動障害の予防に改善は認められない。
 集学的チーム医療が行なわれていないからだ。このままでは急速な進歩は見込めない。

 これは変化を怖れるという人間の本能的な心理も働いているのかもしれません。
 医療関係者はこの恐怖心を克服して、新しい腰痛概念を臨床現場に導入していただきたいと願うばかりです。

 

■「激しい」「突き刺ささる」「ヒリヒリする」等の言葉で頭を満たした場合、レーザー光による熱刺激に対する感受性が増大して疼痛感覚が増強される。
 痛みに関連した言葉と疼痛刺激が組み合わさるとプライミング効果で疼痛体験が雪だるま式に膨れ上がる。

 症状に注意を集中するのはよくありません。
 「多くの場合、その効果が無意識的である点、およびかなりの長期間(例えば1年間)にわたり効果が持続する点、記憶に障害を受けた者にも無意識的なプライミング効果は損なわれずにある(機能し続けている)点に、この現象の面白さがある」って怖いじゃないですか。http://bit.ly/13qgOQk

 

■坐骨神経痛に対する椎間板手術は、保存療法よりある程度の優位性を示すものの一過性でしかない。
 ノルウェーのRCT(ランダム化比較試験)では1〜4年間優位性が持続したが 、
 オランダのRCTでは1年未満だった。

 椎間板ヘルニア手術の短期成績は比較的よいのですが、長期成績はといえば保存療法と変わりません。
 それでも手術を選択しますか?

 手術は世界各国の腰痛診療ガイドラインが勧告している保存療法を試してからでも遅くないと思います。

 

■議論の余地がない真実とされる信念、学説、慣行という腰痛分野における「聖域」を侵した双生児研究の業績は大きい。
 輝かしい賞を数多く受賞しているにもかかわらず、腰への物理的負荷が椎間板変性の危険因子だとする見方は変わらない。
 目を覚ませ。

 姿勢によって椎間板にかかる圧力を測定したナケムソン(Nachemson)の有名な研究をサイトに掲載している人がいます。
 ナケムソンは後に椎間板にかかる圧力と腰痛は無関係だと断言していることも同時に伝えるべきです。
 それを怠っているということはすなわち、自分は勉強不足だと公言しているに等しい行為です。
 恥ずかしい話です。

 

■これまで職場での身体的負荷(重量物の取り扱い、不自然な姿勢での作業など)、自動車の振動、喫煙などが椎間板変性を加速すると考えられていたが、一卵性双生児を対象とした比較研究によって身体的負荷よりもむしろ遺伝子の影響が大きいことを発見。

 国際腰椎学会のボルボ賞を受賞した研究です。
 素人ならともかく専門家が知らないはずはありません。

 

■体重差のある(平均13Kg)一卵性双生児を対象にMRIで腰椎を比較した結果、体重が重い方が腰椎の骨密度が高く、椎間板の状態も良好だった。
 仕事やスポーツによる累積的かつ反復性の生体力学的負荷が椎間板にダメージを与えるわけではない。

 仕事やスポーツを怖れてはいけません。
 腰への負担はむしろ腰痛を予防してくれます。

 

■フィンランドの男性双生児600例を対象とした研究によって、BMI高値、引き上げ筋力が強い、作業強度が高いといった因子はすべて椎間板変性を遅らせるらしいということが、椎間板のMRI信号強度スコアから証明された。

 骨密度と同じように椎間板を若々しく保ちたいなら負荷をかけることです。
 このように従来の考え方は誤りだったことが証明されています。
 頭を切り替えましょう。

 

■腰痛分野における遺伝学的影響の研究はまだ初期段階だが、椎間板変性に関する従来の仮説が誤りであることを証明すれば、より有用な仮説に向かって研究が進み、時代遅れの考え方に基づく効果が実証されていない予防法を刷新できる。

 これまで散々いわれてきた腰痛の予防法は誤りです。
 明確な根拠のある事実に目を向けましょう。

 

■アメリカでは脊椎治療実施率が上昇しているにもかかわらず身体的・機能的アウトカムは低下傾向にある。
 脊椎医療は次々と色々なことに手を染めているが、その成果は極めて乏しい状況にある。

 腰痛疾患に対する医学的介入はそれほどの効果はありません。
 自分で治すという積極的な姿勢が必要です。

 

■ノースカロライナ州の地域住民を対象とした研究では、慢性腰痛患者が増加していると共に医療機関の受診率も上昇しているが、画像検査、薬剤投与、物理療法が過剰使用されていて、エビデンスに基づく治療が行なわれていないことが判明。

 エビデンス(科学的根拠)に基づく治療が行なわれれば慢性化を防ぐことができるだけでなく、医療費の節約になるというデータが掃いて捨てるほどあります。
 いつまでも時代遅れの考え方に捉われていないでそろそろ21世紀の医療を導入しましょうよ。
 それとも慢性腰痛患者を増やしてお金儲けに走りますか?

 

■頚部痛と腰痛患者256例を対象に、医師の標準的な治療群、脊椎マニピュレーション群、理学療法群、シャムトリートメント群に割り付けたRCT(ランダム化比較試験)によると、最も成績が悪かったのは医師の標準的な治療群とシャムトリートメント群だった。

 時代遅れの科学的根拠のない治療法はプラシーボと同等の効果しか得られなかったというランダム化比較試験です。
 プラシーボを超えられない治療法はそろそろやめにしませんか?
 無理強いはしませんけど医療費を有効活用しなければ健康保険制度が崩壊します。

 

■急性腰痛患者186例を対象としたRCT(ランダム化比較試験)によると、安静臥床群、ストレッチ群、日常生活群のうち、最も早く回復したのは日常生活群で、最も回復が遅かったのは安静臥床群だった。
 腰痛に安静第一は間違い。むしろ回復を妨げる。

 急性腰痛(ぎっくり腰)は安静に寝ていると回復が遅れます。
 どうかお願いです。
 サイトに「腰痛には安静が第一」と記載している方は直ちに訂正してください。
 患者さんを慢性化させてしまいます。

 

■エビデンスに基づく正確な情報を平易かつ理解可能な言葉で患者に提供できれば、腰痛患者は不適切な治療を選択しなくなるだろうが、3つの専門学会と10ヶ所の医療機関のウェブサイトを調査した結果、97%が患者にとって難解だった。

 耳がちぎれるほど痛い話です。
 ヘルスリテラシーを身につけてほしいと声高に叫んでみても、サイエンスコミュニケーションができなければ意味がありません。
 自分の能力不足を猛省しているところです。

 

■近年、慢性腰痛に対する医療費が激増している。
 硬膜外ブロック(629%増)、オピオイド鎮痛剤(423%増)、MRI(307%増)、脊椎固定術(220%増)。
 しかし患者の症状や活動障害は改善していない。
 明らかに過剰診療。

 このまま費用対効果の低い治療を続ける意味はどこにあるのでしょう。
 今こそ安全で費用対効果の高い治療法を選ぶべきではないでしょうか。
 無駄なことをしている余裕などないと思いますよね?

 

■イラクとアフガニスタンで腰痛を発症した兵士1410名を対象にした前向き研究によると、
 戦闘中に腰を負傷したのは5%だったにもかかわらず原隊復帰率はわずか13%にすぎず、身体的問題よりも心理・社会的問題が原因と考えられる。

 つまり、腰痛の95%は戦闘中に発症したものではなく、87%が戦場に戻らなかったことから、兵士の腰痛は心理・社会的因子によるものだということです。

 

■イラクやアフガニスタンから離脱した米軍兵士34,006名を対象とした前向き研究によると、
 離脱原因は筋骨格系・結合組織疾患(24%)、
 戦闘による負傷(14%)、神経疾患(10%)などであり
 ほとんどが原隊復帰しなかった。

 人は極限状態に置かれると腰痛や関節痛などの筋骨格系・結合組織疾患を発症しやすくなるようです。
 東日本大震災の影響を心配しているのはこうした事実があるからで、一日も早く腰痛にまつわる迷信や神話を一掃したいものです。

 

■腰椎の変形が腰痛の原因でないことは半世紀以上も前から証明されてきた。
 最も古い対照試験は1953年に実施された腰痛患者100名と健常者100名の腰部X線写真を比較したもので、両群間の変形性脊椎症の検出率に差はなかった。

 レントゲン写真に映ったシミやシワは腰痛の原因ではありません。
 レッドフラッグ(危険信号)のない腰痛患者に対してルーチンに画像検査を行なうのは百害あって一利なし。
 もはや犯罪行為といっていいでしょう。
 国民はそれをしっかり頭に叩き込んでおくべきです。

 

■腰痛患者378名と健常者217名の腰部X線写真を比較した研究でも、両群間における変形性脊椎症の検出率に差はなく、加齢と共に増加する傾向が見られることから、変形は正常な老化現象にすぎず、腰痛の原因とは考えられないと結論。

 変形性脊椎症はただのシミやシワと同じだということが証明されています。
 ですからまったく気にする必要はありません。
 このおかしなレッテル(病名)は早くなくせばいいのにと思います。
 レッテルを貼っても、悪くなることはあっても良くなることはありませんから。

 

■60歳の一般住民666名を対象に胸椎と腰椎のX線写真を分析した結果、腰痛経験者の58.7%に、未経験者の57.5%に変形性脊椎症が確認されたが、両群間の検出率に差はなかった。
 老化よる脊椎の変形は腰痛の原因ではない。

 まさか変形性脊椎症が腰痛の原因だと考えている医師はいないと思いますけど、念には念を入れてご忠告申し上げます。
 レッドフラッグ(危険信号)がなければ背骨の変形と腰痛はまったく無関係です。

 

■港湾労働就職希望者208名、急性腰痛を発症した港湾労働者207名、6ヶ月以上続いている慢性腰痛患者200名を対象に、腰部のX線写真の異常検出率を比較した結果、3群間の加齢による異常検出率に差は認められなかった。

 レントゲン写真で確認できる背骨の変形は腰痛とは無関係であると同時に、腰痛の原因は老化現象ではないということです。
 歳だから腰痛になるなんて根拠のないデタラメな話を信じてはいけません。

 

■腰痛患者200名と健常者200名のX線写真を比較した研究によると、両群間に変形性脊椎症、骨粗鬆症、椎体圧迫骨折などの異常検出率に差は認められなかった。
 したがって老化による解剖学的変化が腰痛の原因とは考えられないと結論。

 変形性脊椎症だろうと骨粗鬆症だろうと椎体圧迫骨折だろうと、症状もなく健康的に暮らせるということが明らかになっているのです。
 レントゲン写真のシミやシワを見せられて不安になる必要はありません。

 

■有痛性の骨粗鬆症椎体骨折患者を対象としたRCT(ランダム化比較試験)によると、骨セメントを注入する経皮的椎体形成術群(38例)と模擬手術群(40例)の術後成績に差は認められず、両群とも急速に痛みが軽減した。
 椎体形成術はプラシーボに勝てず。

 骨粗鬆症による椎体圧迫骨折の中には痛みを訴える患者さんがいます。
 その治療法として骨セメント療法が脚光を浴びていますが、残念ながらその成績はプラシーボ効果だったことが証明されたわけです。

 

■有痛性の骨粗鬆症椎体骨折患者131名を対象としたRCT(ランダム化比較試験)によると、経皮的椎体形成術群と対照群(保存療法)を比較したところ、両群間の疼痛および活動障害に差は認められず、椎体形成術の適用を支持する結果は得られなかった。

 脊椎疾患では手術というドラマ、手術という儀式が絶大な効果を発揮することが多々あります。
 骨セメント療法もそのひとつだったわけですが、ランダム化比較試験によって保存療法と同じ効果しか得られないことが明らかになった今、はたして貴重な医療費を費やしてまで続ける価値があるでしょうか。
 健康保険料を支払っている国民一人ひとりが考えてみるべきだと思います。

 

■健常者41名を対象に腰部椎間板を5年間にわたってMRIで追跡調査した結果、物理的負荷(重量物の挙上や運搬・腰の回転や屈曲等)という従来の危険因子は椎間板変性とは無関係で、腰痛発症率はむしろ椎間板変性のある方が低かった。

 重い物を持っても椎間板が潰れることはありませんし、椎間板が潰れている人は腰痛になりにくいという事実が確認されました。
 腰に負担がかかる動作を怖れる必要はありません。
 腰痛にまつわる迷信や神話は頭から消去しましょう。

 

■男性の一卵性双生児115組を対象にMRIで椎間板変性を促進させる危険因子を調査した結果、椎間板変性は仕事やレジャーによる身体的負担、車の運転、喫煙習慣といった物理的因子より、遺伝的因子の影響を強く受けていることが判明。

 椎間板が潰れるかどうかは腰にかかる物理的負担より遺伝子の影響が強いとことが明らかになっています。
 国際腰椎学会でボルボ賞を受賞した研究です。
 素人ならともかく腰痛患者をあつかう医療関係者が知らなかったではすみません。

 

■21〜80歳までの腰痛未経験者52名を対象にCATスキャンで腰部椎間板を分析した結果、年齢に関わらず35.4%に何らかの異常が検出され、40歳未満の19.5%に、40歳以上の26.9%に無症候性椎間板ヘルニアが確認。

 レントゲンやMRIだけでなく、CATスキャン(CTと同じ)でも健康な人の中に椎間板の異常が見つかります。
 したがって椎間板変性や椎間板ヘルニアが痛みの原因とはいえません。

 

■20〜80歳までの腰痛未経験者67名を対象にMRIで腰部椎間板を分析した結果、21〜36%に椎間板ヘルニアが、50〜79%に椎間板膨隆が、34〜93%に椎間板変性が確認されたことから、手術の選択は慎重にすべきと結論。

 椎間板の異常≠痛み。∴椎間板の異常≠手術。

 

■20〜80歳までの腰痛未経験者98名を対象にMRIで腰部椎間板を分析した結果、少なくとも1ヵ所以上の椎間板膨隆が52%、椎間板突出が27%、椎間板脱出が1%確認されたことから、腰痛下肢痛患者の異常所見は偶然の可能性。

 ハイテク画像診断装置を駆使したところで痛みは見えません。
 レッドフラッグ(危険信号)のない腰下肢痛患者に画像検査は不必要という世界的コンセンサスがあります。

 

■椎間板ヘルニアと診断された強い腰下肢痛を訴える患者46名と、年齢、性別、職業などを一致させた健常者46名の腰部椎間板をMRIで比較した結果、健常者の76%に椎間板ヘルニアが、85%に椎間板変性が確認された。

 これも国際腰椎学会でボルボ賞を受賞した有名な研究です。
 椎間板ヘルニアがあったり椎間板が潰れていたりしても腰下肢痛が出るとは限りません。
 症状の有無は心理社会的因子が関与していることが明らかになっているのです。

 

■脊椎医療の分野では、腰痛や頚部痛の発症および慢性化に対する社会的影響を過小評価、もしくはほとんど無視してきた。
 しかし、社会的疼痛は身体的疼痛と同様に無視できない疼痛である。
 人は社会的な絆に支えられて生きているのだから。

 過去に受けた社会的苦痛によって慢性疼痛が発症することを示唆している研究です。
 だからこそ日本は時期を逸することなく『健康の社会的決定要因』にオールジャパンで取り組むべきだと思います。

 

■モルヒネの鎮痛作用に最も関連深いμオピオイド受容体に変異のある被験者を対象にfMRIで分析した結果、社会的疼痛と身体的疼痛は脳の同じ領域(背側前帯状皮質・前部帯状回)が関与している可能性が明らかに。
 社会的な絆は重要。

 今回の東日本大震災では被災3県はもちろんすべての日本人が心に傷を負いました。
 『健康の社会的決定要因』〔http://bit.ly/tBz7CP〕という観点から考えると、数年後には筋骨格系疾患を含む心身の不調を訴える国民が続出するかもしれません。
 こうした震災の影響を抑えるためには今のうちに何らかの手を打つ必要があると思われます。
 少なくとも腰痛にまつわる迷信や神話は1〜2年以内に一掃しておきたいと考えています。
 どうか国民の利益のためにお力をお貸しくださいますようお願い申し上げます。

 

■18〜75歳の一般住民6,569名を9年間追跡調査した結果、慢性疼痛および広範囲の疼痛を持つ被験者は、疼痛のない被験者より死亡率が20〜30%高かった。
 早期死亡の主な原因は乳癌と前立腺癌。
 運動量や食事習慣などが関与?

 慢性疼痛に苦しんでいる患者は痛みのない人より寿命が短くなる傾向があります。
 痛みによる活動量の低下が一因のようです。
 そういう意味においても慢性疼痛には運動療法が必要不可欠です。

 

■25〜74歳の一般住民1,609名を最長14年間追跡調査した結果、広範囲にわたる慢性疼痛を持つ被験者は、疼痛のない被験者より死亡率が高いことが確認された。
 その死亡率上昇は、喫煙、睡眠障害、身体活動低下と関連していた。

 慢性疼痛は寿命を縮めてしまいますから、何が何でも急性期のうちに治してしまいたいものです。
 そのためには、迷信や神話ではない正確な情報と、根拠に基づく医療によるオーダーメイド・メディスンが重要になります。

 

■腰痛患者100名と健常者100名を対象に腰部X線写真を比較した研究では、両群間の腰仙移行椎、脊椎すべり症、潜在性二分脊椎、変形性脊椎症の検出率に差は認められなかった。
 画像検査による脊椎の異常所見は本当に腰痛の原因か?

 レントゲン写真で認められる異常は、シミやシワ、あるいはホクロや白髪と同じですから心配する必要はありません。

 

■腰痛患者200名と健常者200名のX線写真を比較した結果、脊椎すべり症、腰仙移行椎、潜在性二分脊椎、椎間狭小、変形性脊椎症、脊柱側彎症、前彎過剰、前彎減少、骨粗鬆症、シュモール結節、圧迫骨折、骨盤傾斜の検出率に差はない。

 腰下肢痛の原因は必ずしもレントゲン写真で検出されるわけではありません。
 世界各国の腰痛診療ガイドラインが腰下肢痛患者に対する画像検査を自粛するよう勧告している理由はここにあります。

 

■18〜50歳までの腰痛患者807名と健常者936名を対象に、腰部X線撮影で脊椎分離症の検出率を比較した結果、腰痛患者群は9.2%、健常者群は9.7%だった。脊椎分離症が腰下肢痛の原因と考えるのは非論理的。

 成人の脊椎分離症は腰下肢痛の原因ではないという世界的コンセンサスがあります。

 

■発症後1年以内の腰痛患者144名と健常者138名を対象に、骨盤の歪みを厳密に測定して腰痛との関連を調べた研究により、
 どのような臨床的意義においても、骨盤の非対称性(歪み)と腰痛とは関連していないことが証明されている。

 代替医療にとってはもっとも受け入れ難い事実。
 肝臓は右、心臓は左、右肺は3つ、左肺は2つ。
 人間の身体は左右対称ではないことを解剖学で習ったはず。
 それを思い出していただきたい。

 

■港湾労働希望者208名、急性腰痛の港湾労働者207名、慢性腰痛患者200名のX線写真を比較した結果、
 両群間の異常検出率に差がなかったことから、将来の腰痛発症を予測できず、放射線被曝するX線撮影は雇用者の選別には不適切。

 レントゲン写真で検出される異常は腰痛と無関係なので当然の結果です。
 レッドフラック(危険信号)がない限り、腰痛疾患に対してルーチンな画像検査は行うべきではありません。

 

■明らかに効果がないか、僅かなエビデンスしかない治療法を奨励してはならない。
 患者や社会の利益を考慮すれば強力なエビデンスのある治療法だけを普及させるべきで、ある方法が他の方法より優れていることを明らかにする研究が必要。

 改めて説明するまでもなく、これはEBM(根拠に基づく医療)の基本です。

 

■椎間板造影は全米で年間20万回以上行なわれている侵襲的検査法だが、10年間にわたる前向きコホート研究によって、椎間板造影は椎間板の変性を加速させていることが判明。
 最新の技術を用いても椎間板穿刺は椎間板構造を変化させる。

 椎間板造影や脊髄造影はリスク(害)がベネフィット(利益)を上回るので世界的に行なわれなくなっています。
 それは日本でも同じだと信じています。

 

■妊婦54名と非妊婦41名の腰部椎間板をMRIで比較した結果、
 椎間板異常は妊婦群で53%、非妊婦群で54%、
 椎間板ヘルニアは妊婦群で9%、非妊婦群で10%、
 椎間板膨隆は両群とも44%と差がなかったことから、妊娠は腰にとって安全。

 体重増加や前彎過剰は椎間板に影響を与えません。
 妊娠を恐れる必要はないのです。
 安心して子作りに励んでください。

 

■急性腰痛患者200名、慢性腰痛患者200名、健常者200名を対象にX線撮影で仙骨底角を比較した結果、
 3群間に差はなかったことから、
 腰部前彎と腰痛とは一切無関係なので、医師は腰部前彎に関するコメントを控えるべきと警告。

 背骨はS字状カーブを描くのが正しい姿勢といわれていますが、それはまったく根拠のない迷信だということです。
 自然界に左右対称がないのと同じように、腰痛の治療や予防に影響を与える正しい姿勢などないのです。
 医療関係者は根拠に基づく情報を提供すべきです。
 腰痛疾患を医原病にしてしまったことを猛省しなければなりません。

 


まだまだ情報はありますので、随時追加していきます